より深く和食を味わうための基礎知識 あなたは和食において二つの「KAISEKI」があるのをご存知ですか? 漢字表記は「懐石」と「会席」で異なるものの、発音が同じなため、日本人でも混同しがちです。本格的なコース料理の「KAISEKI」に日本で挑戦してみたい、味わってみたいと考えている人は多いはず。そこで今回は、二つのKAISEKI(懐石・会席)料理それぞれの由来や歴史、コースのメニュー構成、食べ方のマナーなどをご紹介します。 (写真:京都の旬の食材を取り入れた「京懐石(春)」 (c)京都市メディア支援センター) 目次
「茶道ー懐石」「酒宴ー会席」を意識!
「茶懐石」からアレンジが進んだ現代「懐石」
酒宴から生まれたパーティー料理「会席」
まとめ
1. 「茶道ー懐石」「酒宴ー会席」を意識!
簡単に言うと、「懐石」は、茶の湯を楽しむ前に出される軽い食事のこと。一方、懐石を元にアレンジが進んだコース料理で、お酒を楽しむことに重点が置かれているのが「会席」です。時代とともにそれぞれ発達・変容しているので、まずは「懐石」の原型ともいえる「茶懐石」から紹介していきます。なお、懐石・会席ともに「料理」という意味が名前にすでに含まれていますので、「料理」をつけずに述べていきます。
「懐石」は室町時代に茶道で催されるお茶会で供される料理として誕生しました。もともとは飲酒を伴わない簡素な食事で、茶道に基づいた細かい作法があります。
「懐石」は漢字で「懐(ふところ、胸~腹部に該当)」に「石」と書きます。日本に茶を広めたのは禅宗(仏教の一派)ですが、修行の際は1日1食のみが許されており、温めた石を腹部にあてることで空腹をしのぎました。茶道の世界では、この温かい石のように空腹を軽く満たす意味合いで茶席の前に振る舞われる簡単なコース料理を「懐石」と呼ぶようになりました。
↑ 最初に供されるご飯、味噌汁、向付の3品
「懐石」では一連の料理を味わったのち、「濃茶(こいちゃ、名前の通り薄茶の約2倍量の抹茶を少ないお湯で練るようにして点てた茶)」と「薄茶(一般的に飲まれている泡だるようにして点てた茶)」を楽しみます。濃いお茶は空腹には刺激が強いとされていたため、客人へのおもてなしとして、茶会の前にお食事を提供する習慣が生まれました。
茶懐石は、茶会の「亭主(ホスト)」が「来客をもてなす」ために提供する食事。「わび・さび(質素かつ簡素なものが持つ独特の美、ひっそりと静かな中に存在する味わいや深み)」の茶道の教えを反映して、華美にならず、シンプルな中に「旬の食材」「素材の味」を活かし、「客へのおもてなしの心」を込めることが基本とされています。そのため、基本は和食を供する際の「一汁三菜」。そのため、まずご飯から始まり、汁物とおかず、香の物が供されるのが特徴。この点が料亭などで供される一般的な「懐石」コースとは大きく異なりますので、今回、混乱を避けるために「茶懐石」と呼んで区別します。お店の予約の場合も、茶懐石を提供しているか確認が必要です。
以下が「茶懐石」の供される順番です。なお、それぞれの呼称や順番は茶道の流派などによって異なることがあります。
ご飯:たきたてのご飯をごく少量、一口ほど盛ることで、ホストがお客様を待ちわびている気持ちを表現。
汁もの:基本は味噌汁。関西では白味噌仕立て、関東では合わせ味噌仕立てが多いようです。
向付(むこうづけ):刺身が多く、季節によって酢の物(なます)や和え物になることも。
4.↑ 椀盛(わんもり):湯葉や魚介、野菜など旬の具材を美しく盛りつけ、澄し汁をはったメイン料理。(漆の)塗り椀で供されます。
5.↑ 焼物(やきもの):焼き魚。本来の茶懐石はひとまずここで終了。
6.強肴(しいざかな)、預け鉢(あずけばち):お酒を供する際に、ホストが「強いてすすめる肴」の意味。あえ物や揚げ物などの場合が多いです。
7.小吸物(こすいもの):細形の蓋付きの椀で供される少量の吸い物。箸洗(はしあらい)として口中を清める意味もあります。
8.↑ 八寸(はっすん):山海の珍味2種を盛り付けた一皿。呼び名は盛り付けに一辺が八寸(約24センチ)の四角い杉の器を使うことから。
9.湯桶(ゆとう):おこげに湯を注ぎ、塩少量を加えた締めくくりの料理。湯で煮た煎り飯の場合も。
10.香物(こうのもの):漬物のこと。季節の野菜の漬物を彩りよく3種類ほど盛り付けます。
*茶懐石では折敷(おしき=盆)で一緒に出される最初の3品=トップ写真=にも食べる順番があります。まずはご飯は一口分残しておくのがルール。汁物はすべて飲み終えたら、向付に口を付けます。5、6、8などは、大きな器に盛り付けて提供され、料理を一人ずつ取り回し、器を鑑賞するプロセスが含まれることもしばしばで、茶懐石には、ほかにも茶道の作法にのっとった細かい作法があります。お酒を供する場合もあり、強肴と吸物、さらに山海の珍味を盛った八寸は、お酒をより美味しくするための料理でもあります。このコースに続き、濃茶と薄茶を味わいます。
2. 「茶懐石」からアレンジが進んだ現代「懐石」
↑ (写真:「京懐石(秋)」 (c)京都市メディア支援センター)
それでは現在日本料理店、料亭で供される「懐石」について説明します。
茶懐石の基本思想や美意識に基づいて献立が組まれて供されるコース料理が「懐石」です。現在は料理とともにお酒も楽しむのが一般的となっています。そのため、茶懐石と異なり、ご飯と汁物が最後に出されるパターンがほとんどです。また、茶懐石のように大皿に盛った料理を各自が取って回すことはありません。品数を増やしたり、順序を変えたり、肉や西洋風の食材、地元の名産品などを盛り込むことでオリジナリティーを出しています。
以下が「懐石」の供される一般的な順番です。なお、それぞれの呼称や順番、品数は地域、店や料金によって異なることがあります。
先付(さきづけ):野菜の和え物や酢の物など。いわゆる前菜に該当。
煮物椀:茶懐石と同じ。旬の食材を出汁と味わうのが目的で、料理人の技量が明確に出る料理。
造り(つくり):旬の鮮魚、魚介の刺身の盛り合わせ。
焼物(やきもの):懐石のメインディッシュ。旬の白身魚のほか、和牛、アワビなどの貝類、伊勢海老などの甲殻類が出されることも。
進肴(すすめざかな):美しく飾り切りを施された野菜の煮物の盛り合わせ。揚げ物などの場合も。
箸休め:本来は小さなお椀で出される汁もので、焼物などの後味を流して次の料理に備えます。蒸し物や酢の物などの場合も。写真は、アワビの酢の物、秋の味覚の王者(6-a)とも言われる松茸の土瓶蒸し(6-b)でとてもゴージャス。
八寸(はっすん):魚介類と野菜、山海の珍味などが数種類。お皿の上に彩り豊かに並ぶ料理を食べながら、お酒を酌み交わし、親交を深める意味合いがあります。
ご飯と留椀(とめわん)、香の物:炊きたての白米や炊き込みご飯、味噌汁と3種類ほどの漬物。
水菓子、抹茶:和菓子、季節の果物など。
ご飯と汁物、香の物を除き、基本的には茶懐石とほぼ同じ順番で供されます。ここで紹介した懐石料理の流れや内容は、ほんの一例ですので、揚げ物や蒸し物が出ることもありますし、順番や内容が違うこともあります。
3. 酒宴から生まれたパーティー料理「会席」
懐石も会席もコース式料理であるために混同されがちですが、大きな違いがあります。「会席」は食事とともにお酒を楽しむためのコース料理です。会席の主眼はお酒とともに宴席(パーティーや集い)を楽しむこと。現代では結婚披露宴や祝賀パーティーなど、華やかでくつろいだ雰囲気で酒と料理を楽しむ際に供されます。なお、厳しい作法などはなく、一般的な和食のマナーを身につけていれば対応できます。
「会席」は、もともと江戸時代における俳句の集いの呼称でしたが、次第に俳句の会で供される食事のことを「会席」と呼ぶようになりました。茶懐石をベースにしつつ、酒宴向きの食事として発達。現在では、しゃぶしゃぶ、ステーキ、伊勢海老などの豪華な海鮮料理などもメイン料理として登場します。これは、宴席料理として発達した会席は、もてなす側の財力を示すために豪華さや贅沢さが重要視されたため。また、客の目と舌の両方を楽しませるため、料理人による野菜の飾り切りなどの包丁技術が大いに発達したそうです。
会席の流れや料理の内容は以下の通り。基本的には先述の懐石に準じていますが、懐石に比べて自由度が高いため、食事の素材、和洋中の調理法を取り入れたり、バラエティーに富んでいます。
先付:お酒とともにいただく趣向を凝らした前菜。
造り:季節感あふれる旬の鮮魚の刺身など。
煮物:茶懐石と同じですが、メインという位置付けはありません。上記の写真の場合、メインに肉、魚介が盛り込まれてボリュームがあるため、コースから抜いてあります。
揚物:天ぷらなど、油で揚げたもの。
焼物:メイン料理として、ステーキ、伊勢海老などのグリル、しゃぶしゃぶ、すきやきなどの鍋になることも。
蒸物:茶碗蒸し、酢の物など箸洗いの役目も。
ご飯・止め椀(味噌汁)・香の物:ご飯ものは釜飯、寿司などの場合も。
水菓子:食後のデザートのこと。季節のフルーツ、アイスクリーム、ケーキなどの盛り合わせなど。
供される順番は必ずしもこの通りとは限りません。一般的にメイン料理の内容、ボリュームに合わせて随時変更されます。
4. まとめ
(写真:「京懐石(夏)」 (c)京都市メディア支援センター)
「懐石」と「会席」の違いを紐解いてきましたが、どちらを味わうにしても大切にしたい和食を味わう際の心構えをあなたと共有したいと思います。
まずは、五感で楽しみましょう。器と盛り付けを目で楽しみ、出汁はもちろんのこと、ゆずや木の芽など季節を象徴する香り、食材の歯ごたえや噛んだ時の音までも美味しさの一部として体感してください。
また、食事をする空間も含め、目の前で供される品々から季節の旬を感じ取りましょう。夏はガラス器を用いて清涼感を出すなど、和食では使う器にも季節が反映されています。また、活けられた花や絵画などからも、店主や料理人のもてなしの心を感じてください。
また、茶道における厳密な茶懐石でない限り、必要以上にマナーにとらわれる必要はありません。見たことがない食材、食べ方が分からない素材があれば給仕係、カウンター席なら料理人に質問しても失礼にあたりません。料理を供する側もいただく側とのコミュニケーションを求めていますし、あなたの反応や興味に対して的確に対応することこそ、食とおもてなしのプロとしての醍醐味でしょう。
さて、あなた自身の「KAISEKI」を味わいたくないですか?
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